コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/08/05

驚きの絶賛報

▼日々暗いニュースが多い中、ほっとするようなニュースを聞くと、こちらの気持ちも思わずなごむ。先月22日の朝、JR南浦和駅で、停車中の京浜東北線の普通電車から降りようとした30代の女性が足を踏み外し、電車とホームの間に挟まれた。車内やホームにいた利用客約40人が車両を押して、隙間をつくり女性を救出したという
▼駅員が電車内にいた乗客を降ろし、女性を引き上げようとしたがうまくいかず、その様子を見ていた乗客らが自主的に協力。数回目に電車が傾き、女性が助け出された。周囲からは拍手がわいたそうだ。車両とホームの隙間はわずか10センチ。1両当たりの重さは約32トンというから、善意による団結の力は計り知れない。女性に目立ったけががなかったのも幸いだが、京浜東北線が最大8分の遅れで済んだというのも日本ならではだろう
▼しかしそれに輪をかけて驚かされたのは、このニュースが世界をめぐり、各地のメディアなどで絶賛されたことだ。米国では「おそらく日本だけで起こりうること」、英国では「(駅員や乗客が)英雄的な行動を示した」、イタリアでは「イタリア人だったら眺めるだけだろう」、香港では「中国では大勢の野次馬が見物するだけ」。はたまたロシアでは「どうしてこんなに迅速に乗客が団結できたのか」、タイでは「とっさにこのような行動ができる日本人は、どのような教育を受けているのか」といった声まで出た
▼大抵の日本人なら、こんな場面に出くわせば、野次馬のように眺めるだけでいるほうが逆に難しい。日本人には、孔子の言う「義を見てせざるは勇無きなり」的な道徳心が備わっているのかもしれないが、私たちがさして特別とも感じない「一致団結」の精神が、世界においてはことほどさように「美徳」であるとは、かえって多くを教えられた。東日本大震災のときも連帯や共助の精神が世界から称賛されたが、今回のニュースもまた日本が世界を驚かせた。日本人もまだ捨てたものではないと、少しは胸を張ってもいいのではないか。

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