コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2016/09/20

恐れのルーツを探る「大妖怪展」

▼夏は幽霊や妖怪の出番が多い。出番を夏に限るのは、人間側の勝手な都合にすぎず涼を求めてのことでもあろうが、もし出没の季節や場所を選ぶなら、彼ら魑魅魍魎の都合でなければおかしなものだ。いずれにせよ夏も盛りを過ぎると、彼らはどこか肩身が狭そうだ
▼先月末まで江戸東京博物館で開かれていた「大妖怪展」は、自然への恐れや不安に対する造形化のルーツを縄文時代の土偶にまで求め、一方で、現代に転生した妖怪として「妖怪ウォッチ」にも焦点を当てた展観となっていた。多くの文化財に描かれた妖怪たちは、一見不気味でありながら愛らしさにあふれ、ときには親しみすら感じさせる
▼日本絵画に「鬼」や「もののけ」が登場するのは平安時代末期の12世紀とされる。地獄絵や六道絵で地獄の様相が表現され、妖怪誕生のイメージソースとなった。妖怪が絵画に描かれ始めるのは南北朝時代(14世紀)の「土蜘蛛草紙絵巻」あたりで、その後は様々な妖怪たちが登場してくる
▼16世紀には「百鬼夜行絵巻」が描かれ、おびただしい模本とともに妖怪の造形にも様々なバリエーションが生まれる。さらに妖怪たちは、桃山時代の雌伏期を経て江戸時代に爆発的に増殖。妖怪を集大成した鳥山石燕の「画図百鬼夜行」が刊行され、江戸の妖怪大辞典となった
▼この頃から妖怪に幽霊も取り込まれ、幽霊画が掛軸などとして鑑賞された。ただし、幽霊を妖怪の一つと考えるかは現在でも諸説ある。幽霊はあの世(他界)に住み、妖怪の棲む「異界」とは別とする説がある一方、妖怪とは異界に住む「祀られぬ霊的存在」で、幽霊も妖怪の一つと考える説もある
▼「大妖怪展」で土偶が目の前に現れたときには多少の違和感を覚えたが、土偶はもちろん妖怪とは別物。ただ、異界への恐れの形という意味ではそう変わらないのかもしれない。土偶の愛嬌ある形が現代の「妖怪ウォッチ」の妖怪たちと気脈を通じることから、同展の狙いも縄文時代から現代へタイムスリップする点にあったようだ。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ