コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2016/06/07

サミットと難読地名

▼地名には難読のものが多い。知識として知らなければ、とうてい読めない地名も珍しくない。先の伊勢志摩サミットの会場となった「賢島(かしこじま)」も読みにくい地名の一つだろう。その賢島が浮かぶリアス式海岸の名称「英虞湾(あごわん)」は、さらに難易度が高くなる。恥ずかしながら筆者も十年以上前に現地を観光で訪問するまで、その読みが音(おん)と結びついていなかった
▼難読地名ならばなおのこと、その由来が気にかかる。賢島の名は、江戸時代の指出帳にある「かしこ山」から来ており、当時の農民が干潮の時、徒歩(古語で「かち」)で島に渡れたため「かちこえ島」と呼ばれ、それが訛って「かしこ島」になったとされる。賢島という現在の表記に改められたのは、近鉄志摩線の鉄道開通時だという
▼賢島の面積は約0・6814㎢、周囲は約7・3㎞で、本州との間は10m未満しかない。島には近鉄志摩線が伸び、島中央には終点の賢島駅がある。鉄道の開通までは松林と水田が見られる程度だったが、現在では観光地化が進み、今回のサミット会場となった「志摩観光ホテル」をはじめとしてレジャー施設や保養施設が点在する
▼周囲を取り巻く英虞湾は複雑に入り込んだ内湾のため、一帯は雄大で穏やかな海と山の景観が広がる。英虞湾といえば真珠の養殖が盛んで、水面に浮かぶ多くの養殖イカダや、湾の彼方に沈む夕日はつとに有名だ
▼そんな英虞湾の地名は、古く平城京跡から出土した天平年間の木簡に「英虞郡」の文字が見られ、また「あご」という呼び方は天武天皇の時代に遡るというが、その文字や読みの由来には定説がないようだ。とはいえ、その文字がいかにも〝名は体を表している〟ように感じるのは筆者だけだろうか
▼今回のサミットに際しては、賢島に厳しい立ち入り制限が敷かれ、地元の人々は日常とかけ離れた物々しさを味わったことだろう。ただし、サミットに出席したG7首脳らには、訪問先の伊勢神宮にとどまらず、賢島の美しい景観が深く脳裏に刻まれたに違いない。

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