コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2023/03/09

明かされた人魚の招正体

▼3年以上に及ぶコロナ禍では、疾病退散のご利益があるとされる妖怪「アマビエ」が脚光を浴びた。架空の存在とはいえ、苦しいパンデミックの中では、藁をもすがる思いでアマビエに願いをかける人も少なくなかった
▼アマビエは、髪が長く、口は鳥のようなくちばし状で、目や耳はひし形をしているが、総じて人魚の相貌といっていい。往々にして人間はそんな架空の存在に夢や願いを託すようで、国内には「人魚のミイラ」が10体以上確認されているという
▼岡山県の寺院、円珠院(えんじゅいん)が秘蔵する「人魚のミイラ」が、倉敷芸術科学大の研究者らによってX線などで科学的に調査された。調査の結果、ミイラはあご以外の頭や脊椎、肋骨(ろっこつ)など主要な骨格がなく、造形されたものだった
▼頭部はほぼ綿で作られ、部分的にしっくいや石膏のようなもので成形。上半身の体表は紙を重ね、フグの表皮と動物の毛が接着されていた。下半身には尾ビレや背ビレなどがあり、ニベ科の魚類の特徴を持つことが分かった。はがれ落ちたうろこから、1800年代後半に制作されたとみられるそうだ
▼最新の科学技術でこれほど詳細が分かるのも驚きだが、それ以上に精巧な作りと外見のリアルさは半端でない。全長は約30㎝。正面を向く眼窩や耳、鼻、頭髪、5本指の両腕など霊長類を思わせる上半身に、うろこに覆われた下半身。元文年間(1736~41)に土佐の海で漁網にかかった人魚と記された書き付けとともに桐箱に収められ、同寺に伝えられてきたという
▼ミイラに科学的な調査が入ると知ったときには、結果やいかに、と興味津々だったが、すべて造形されたものと聞いて、がっかりした。筆者も架空であるはずの存在に夢や希望を抱いていたと知ったが、その精緻さからして、ミイラを作った者の、人魚への思いも並々ならぬものであったことは容易に想像がつく。国内に10体以上あるミイラの中にはまだひょっとして……と、いまだ存在の可能性を捨てきれずにいる自分がいることにも気づかされた。

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