コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/10/01

文化財にも及ぶ台風被害

▼台風15号の暴風による被害が千葉県内の文化財にも及んでいる。神社仏閣や古民家の屋根が壊れ、史跡ないの樹木が倒れるなど、先月20日現在で76件の被害が確認されている。暴風被害の多方面への広がりを改めて痛感させられる
▼1400年前の飛鳥時代に聖徳太子によって開かれたと伝わる名刹「鹿野山神野寺」(君津市)では、500年前の室町時代に建てられたとされる国の重要文化財「表門」の基礎柱が折れ、かやぶき屋根も崩れた。報道写真を見る限り、建物は無残にひしゃげ、見る影もない。境内にある他のお堂も倒木や暴風で被害を受け、「台風直後は境内の惨状に声も出なかった」と話す寺の関係者の落胆もうなずける
▼単純には言えないが、16世紀初頭の建立から500年もの間、風雨に耐えてきた建物を破壊するほどの暴風に見舞われたということかもしれない。昨今の自然災害では、すでに「想定外」の言葉が使い古されつつあるほど、想像をはるかに超える甚大な被害に至るケースが少なくない。難題ではあるが、想定外では済まされないより高いレベルでの備えがますます求められる
▼国特別史跡の縄文遺跡「加曽利貝塚」(千葉市若葉区)でも100本の木が倒れ、3か所で貝塚の一部があらわになった。筆者も被害現場に足を運んだが、史跡の入り口には「園内には多数の倒木・落枝が散乱しています。頭上や足元に十分お気を付けください」との注意書きが掲げられ、園内にはトラロープ(標識ロープ)や三角コーンがあちこちに設置され、立ち入り禁止の場所もあった
▼倒木の多さもさることながら、約5千~約4千年前に形成された貝と土が折り重なった「貝層」の一部が、木の根ごと掘り起こされている光景に衝撃を受けた。露出した部分は最大で幅4m、深さ約1・5mといい、土の中から無数の白い貝殻があらわになっている。こうした予期せぬ形でむき出しにされた、遠い縄文の人々の営みの痕跡は、頻発する自然災害に直面する私たちへの警鐘にも感じられた。

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