コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/03/19

「白覆面の魔王」死す

▼覆面レスラーとして活躍したザ・デストロイヤー(本名リチャード・ベイヤー)さんが2017年に秋の叙勲で旭日双光章を贈られたときには、正直驚いた。往年の名プロレスラーに叙勲とは、内閣府も粋な計らいをするではないかと、プロレスファンの一人としてほくそ笑んだ
▼そのデストロイヤーさんが3月7日に米国の自宅で死去した。88歳だった。力道山などとの名勝負がうっすら記憶によみがえり、その死が残念でならない。バラエティ番組などではタレントとして人気を博し、明るいキャラクターが多くの人から愛された
▼とはいえ、日本のトップレスラーと激闘を繰り広げた往年は、キュートなどころか、「白覆面の魔王」としてひたすら強く、子供心にも怖かった。必殺技「足4の字固め」に苦悶するレスラーたちを見て、どれほど痛いものかと、友人と技をかけあった思い出もある。半世紀を経たいまでもプロレス試合のマット上で使われる古典的な技だが、初めてテレビで見た時のインパクトは今でも忘れられない
▼後年の明るいキャラクターも含めて、徹底したプロフェッショナルだった。覆面レスラーのイメージを保つため、シャワー以外は決してマスクを外さなかった。人前ではご飯を食べるときも、車に乗るときもマスク姿だったという
▼本国に戻ってからは教育学の修士号を生かし、水泳やレスリングのコーチを務めた。日本で開かれる少年レスリング大会には母国の選手を連れてたびたび来日した。こうした社会活動を20年にわたって続け、それが叙勲の対象になった
▼親日家であり、家族を呼び寄せて日本で生活していた時期もある。昨年2月に行われた外国人叙勲の伝達式後の記者会見では「(太平洋戦争で日米が戦った)高校時代は日本は敵だったが、日本に行って大好きになった」と語っていた
▼晩年は足を悪くして、足4の字固めもままならなかったようだ。東京五輪が開かれる2020年には来日したいと意欲を示していたが、残念ながら望みはかなわなかった。

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