コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2011/06/21

震災の年の「山下清展」

▼「放浪の天才画家 山下清展」が千葉県立美術館で開かれている(7月10日まで)。筆者が赴いたのは日曜日だったこともあり、駐車待ちの車が外まで連なる盛況ぶり。緻密にして素朴なその作品は、今でも根強い人気がある
▼山下清(1922‐71)は、12歳の時に市川市の八幡学園に入園した千葉県ゆかりの画家である。少年時代から取り組んだ貼絵で抜群の才能を発揮し、豊かな色彩感覚と親しみやすい作風から「日本のゴッホ」と称された
▼とはいえ、その作品はゴッホのような激しさよりも、優しさや懐かしさを感じさせる。むしろ、傷つき、元気をなくした今こそ、私たちがその作品に癒される時なのかもしれない
▼今回の展覧会では、貼絵のみならず、油彩画や素描、水彩画、陶器、版画など幅広く展示。放浪日記など本人のコメントも併せて紹介することで、その展観をより楽しく、興味深いものにしている
▼今回の東日本大震災では、被災直後の被災地の惨状を、戦時の焼け跡のイメージに重ねるコメントを何度も聞いた。戦前戦後を通じて活躍した山下清も、同じような光景を目にしたことだろう。事実、戦争への恐怖を人一倍抱いていたともいわれる。「みんな爆弾なんかつくらないで きれいな花火ばかりつくっていたら きっと戦争なんて 起きなかったんだな」。花火を愛し、花火があると聞けば出かけていった彼らしい言葉だ
▼昨今の自粛ムードに諸事情が重なって、花火大会の中止がドミノ現象のように相次いでいる。致し方ないのか、こんな時こそやるべきなのか。山下清の貼絵にあるような、鮮やかな花火を現実の夜空で目にするのは、しばしお預けになるかもしれない。

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