コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/08/19

色褪せぬ鞘堂方式建築

▼1995年のオープン以来、千葉市のランドマークとしてすっかり定着した「千葉市美術館・中央区役所」。鞘(さや)堂方式と呼ばれる建築方式によって計画当時から注目された建物だが、建築から約20年を経て再び脚光を浴びている。新旧の調和を図って一体保存するその手法は今もまったく色あせていない
▼区役所を建物の3~5階、美術館を6~10階に配置し、建物前面の中央部にあたる地上から5層分を吹き抜けとして、その中に、ネオルネッサンス様式の旧川崎銀行千葉支店の主屋がすっぽり抱きかかえられるように納まる。同千葉支店は昭和初期(1927年)の建築で、戦前の都市型銀行建築の特徴を表すものとして知られる
▼建築当初からこの場所にあったが、1971年以降は千葉市が所有し、中央地区市民センターとして利用されていた。89年に美術館と区役所の複合施設の建設地としてこの場所に白羽の矢が立った段階では、新築は旧い建築を取り壊すことを意味していた。しかし、建物の保存を求める声が高まり、「部分保存」を採用する方針が決まった
▼設計者には建築家・大谷幸夫氏が率いる大谷研究室が選ばれたが、「旧いものと現代的なものを組み合わせることがライフワークだった」とされる大谷氏は、部分保存ではなく、復元保存の手法を選択。あくまで先にある建物を重んじることで、新しい建物との調和をとる考え方が、鞘堂方式の採用につながった
▼復元保存された旧川崎銀行千葉支店の建物は、「鞘堂ホール」の名称で現在もコンサートや展覧会などに使用されている。イオニア式の列柱が並ぶ空間は、足を踏み入れる者を、時を超えて荘厳な気分にさせてくれる。部分保存ではとてもこうはいかなかっただろう
▼シンメトリーの斬新な山型を描く「千葉市美術館・中央区役所」は、国内の優良な建築物に与えられるBCS賞を96年に受賞した。歴史的な建物を損なわず、大切に包む込む新旧一体の建築美は、県内の代表的な建築作品と呼ぶにふさわしい。

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