コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/02/04

環境革命と国づくり

▼2020年東京五輪の成功はもちろん重要だが、五輪で何を目指すのか、つまりは五輪後の日本はどうあるべきか。長い目で見れば、そのことのほうが重要に違いない。未来の日本の姿を描くために、五輪を転換点としてとらえる――。弊紙が加盟する日本専門新聞協会の新春講演会で、東京都市大学環境学部教授で造園家の涌井雅之氏の話に、そんな視点の必要性を痛感した
▼涌井氏は、従来のライフスタイルやビジネスモデルを転換する「環境革命」を提唱。豊かさを追い求めるより、豊かさを深める社会に切り替えていく。価値観や消費構造が変化しつつある今、利益結合型社会から地域結合型社会へと脱却し、一極集中型の国土づくりを、地域の個性やコミュニティを重視する地縁結合型社会へ変えていくべきとする
▼深刻化する地球温暖化や異常気象は人為であり、これを食い止めるためにも、モノの豊かさより心の豊かさに重きを置く。言い換えれば、成長より成熟。成熟を社会の基盤に据えるために、社会資本だけでなく、自然を資本財として引き継いでいくという視点だ
▼かつての日本は、自然の厳しさと対峙して折り合う美徳を備えていた。日本人にはいわば「いなし」の知恵があった。自然や人間社会の在り方をリデザインすることで災害を減じてきた日本人の知恵を、いまこそ取り戻すべきと主張。その上で、都市の理想像として、「社会資本の整備」「自然資本への配慮」「国際性を重視した経済活動」の3本の柱の真ん中に「コミュニティ」を置き、レジリエンスの高い都市を目指す方向性を掲げる
▼東京のあるべき姿では、都市郊外化を抑制し、緑を復活させ、交通を公共交通機関にゆだねるコンパクトシティの考え方を基本に、新たな世界都市のモデルづくりを提言。グレーインフラ、グリーンインフラ、あるいは双方のベストミックスのいずれを選ぶのか。東京五輪を契機に、そのことを可視的に示すべきとする涌井氏の主張は、今後の日本を考えるうえで極めて示唆に富むものに思われた。

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