コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/04/29

仏像半島

▼仏像を前にするたび、この仏様はかくも長き歳月、この世のありさまをどう見てきたのかという思いにとらわれる。我々の所業を苦々しく、あるいは悲しく眺める時間も多かったのではないか。そう思うと、少々恥ずかしい気分にもなる。しかしどんなときにも、慈悲深く、ときには憤怒の形相で戒めてくれる――すべての根本には優しさがあるように思える
▼千葉市美術館で開催中の「仏像半島-房総の美しき仏たち」を観て、改めてそんな思いを深くした。美術館という近代的な空間に、造立当初の雰囲気を再現するため諸尊を群像として立体的に配置する演出が劇的な効果を上げ、古仏たちの威厳や迫力を際立たせていた
▼房総半島各地から選りすぐられた仏像約150体。関東の白鳳仏として重要な龍角寺の薬師如来坐像に始まり、平安前期の森厳な作例を経て、定朝様や鎌倉様式を受容していく流れを追いながら、「七仏薬師と妙見菩薩」「房総の鋳造仏と上総鋳物師」といった当地ならではのテーマも検証している
▼とりわけ興味深かったのは、房総には薬師如来の古仏が多いという調査結果だ。指定彫刻全体に対する薬師の割合は関東地方で千葉県が15・8%(関東全体10・5%)と最も高い。これには様々な要因が重なっているようだが、一つには、水とかかわりの深い房総半島で水害から命や土地を守ろうとする信仰が展開し、薬師信仰を廃れさせなかったためだという。印旛沼周辺に薬師の古仏が集中するのもそうした理由によると分析している
▼旭市にある密蔵院の毘沙門天立像(14世紀)のエピソードにも心を動かされた。東日本大震災で旭市飯岡地区は大津波に襲われたが、この密蔵院のある地区は奇跡的に被害をまぬがれた。このことから、地元では津波を防いだ毘沙門様と呼ばれているそうだ。連綿と続いてきた信仰が今に生き、これからも生き続けるだろうと思わせるエピソードである。美しき仏たちは、どれほど星霜を経ようと、我々を見守っていてくれるように思えてならない。

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