コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/09/14

「日本遺産」認定めざす鋸山

▼「足がすくむ」という言葉があるが、千葉県内で最もこれに当てはまる場所と言えば、鋸山の「地獄のぞき」かもしれない。突き出た岩の突端から谷底をのぞくと、その絶景に感嘆する前に、怖さに足が棒を束ねたように固まってしまう。文字通り、足がすくむのだ
▼そんな「地獄のぞき」や、眼下に広がる東京湾の眺望などで知られる鋸山が、文化庁が認定する「日本遺産」の候補地に選ばれた。4年後に全国約100か所限定の「日本遺産」入りを目指して今後、官民一体で取り組みが進められる
▼鋸山は富津市と鋸南町にまたがり、標高は329mで東京タワー(333m)よりも低いが、「地獄のぞき」に代表される迫力ある景観で知られる。しかも、ここには江戸時代から続いた歴史が詰まっている
▼切り立った岸壁は、良質な建材となる凝灰岩が「房州石」として江戸時代から1985年まで切り出された跡で、この房州石は横浜港などを築くのに利用された。下から見る山容が巨大な鋸をほうふつとさせることから、この名がついた
▼幕末以降は台場や海堡、港湾などに使われ、日本の近代化を支えた産業遺構でもある。また鋸南町側の南麓には、約1300年前に開かれた日本寺をはじめ、断崖に掘られた高さ30mの巨大な摩崖仏、千五百羅漢像などの仏教関連遺跡が点在する
▼富津、鋸南の両市長が候補地認定を目指していたが、一度は落選。しかし今回、念願の候補地に選ばれた。候補地選出に向けて新たに打ち出したタイトルは「天空の岩山が生んだ信仰と産業~房州石の山・名勝地鋸山は自然と歴史のミュージアム」。課題を設定し、対策しようとしている点や、基本的に必要な取り組みや具体的な内容、魅力的な観光資源などが評価された
▼正式認定には、これから3年間の活動がカギとなる。地域の活性化や観光振興の土台づくりに向けて、人材育成や普及啓発、調査研究など、財政支援を含めた地域の磨き上げを促進することで、ぜひ4年後の「日本遺産」入りにこぎつけたい。

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