コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/12/25

危機を救った治水施設

▼今年は9月から10月にかけての記録的な大雨で、東日本を中心に甚大な被害が出た。近年のとどまるところを知らぬ自然災害の激甚化からすれば、来年もできる限りの覚悟と備えが必要になる
▼とくに10月の台風19号では、東日本の各地で河川氾濫や土砂災害が相次いだ。都心部は大規模な浸水を免れたが、さらに雨量が増えていたら最悪の事態が起きていた可能性があったことも、その後の調べでわかってきた。流域人口の多い利根川や荒川でそうした危機を間一髪で救ったのは、各河川の治水施設だ
▼流域面積が日本一広い利根川では、ダムや遊水地などがフル活用された。群馬県長野原町の八ッ場ダムでは約7500万㎥、同ダムを含む上流域の7ダムでは合計で東京ドーム117個分に相当する約1億4500万㎥を貯水。これにより、下流にある同県伊勢崎市の八斗島観測所での水位上昇が約1m抑えられたという。試算では、これらのダム群がなければ、自治体が避難勧告を発令する「氾濫危険水位」を上回っていた
▼さらに支流・渡良瀬川の渡良瀬遊水地(茨城県古河市等)では約1億6000万㎥、茨城と千葉県境にある菅生、稲戸井、田中の3調節地でも約9000万㎥を貯留し、合計で東京ドーム202個分の約2億5000万㎥の水をためた
▼荒川でも上流の二瀬ダムなど3ダムで合計約4500万㎥、荒川第一調節池で約3500万㎥を貯水。首都圏外郭放水路(埼玉県春日部市)は、他の排水施設と合わせて5960万㎥を流域外に移送した。支流の越辺川と都幾川では国管理の堤防3か所が決壊したが、逆にこの決壊がなければ、本流で被害が出た可能性も指摘されている
▼今回は、治水施設が一定の機能を果たしたことで、下流の都市部で堤防が決壊するような最悪の事態を免れた。治水施設の重要性を再認識するとともに、今後は将来的な気候変動の予測を視野に入れた治水や都市計画も必要になる。浸水しても住民の生命や財産が守られる街づくりを考える時期にきている。

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