コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2018/07/24

「月の沙漠」は御宿生まれ

▼童謡「月の沙漠(さばく)」が御宿町生まれと知る人は、千葉県民ならば少なくないだろうが、一般的に知られているかといえばそうとも言えまい。事実、「月の沙漠」の発祥地をうたう場所は鳥取砂丘や静岡県焼津市の吉永海岸などほかにも全国に複数ある。しかしそのいわれをひもとくと、やはり御宿町との結びつきが最も深いことは間違いない
▼「月の沙漠」は、画家で詩人の加藤まさをが作詞し、作曲家の佐々木すぐるによって作曲され、童謡として有名になった。レコード化は1932年だが、その後も世代を超えて長く歌い継がれている
▼加藤は23年に関東大震災が起こるまでの数年間、結核の療養のために御宿海岸を訪れていた。その時に後の町商工会長の内山保と知り合い、2人は65年から手紙をやり取りするようになった
▼その手紙の中で加藤は「『月の沙漠』の幻想の中には、御宿の砂丘が潜在していたに違いない」と記している。これが御宿町が「月の沙漠」の発祥地を名乗るきっかけとなった
▼69年7月には御宿海岸に、王子さまとお姫さまが2頭のラクダに乗った記念像が建てられた。一度はどこかで目にしたことがある人も多いだろう
▼加藤はその後も「御宿囃し」など御宿町を題材にした曲の作詞を手掛けた。さらに76年5月には御宿町に転居し、77年11月に亡くなった。生涯にわたり御宿町との縁は深かった
▼「月の沙漠」作詞の際、加藤の念頭にあったのはアラビアの情景だったとも言われるが、それは沙漠へのなんとない憧れからだったと後に語っている
▼「沙漠」の表記が「砂漠」でないのは、「沙」に「砂浜」の意味があり、そんなことからも御宿海岸の風景から歌詞が発想されたのは想像に難くない
▼御宿町を訪れると、日に何度か「月の沙漠」の物悲しい旋律が時を知らせる防災行政無線で流される。とりわけ夕刻に響くその旋律には、何とも郷愁をそそられる。夕日に映える記念像の美しいシルエットを眺めながら作詞者の心境に思いを馳せれば、また格別の味わいがある。

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