コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2017/11/14

「ミリキタニの猫」に平和を思う

▼米ニューヨークの路上画家ジミー・ミリキタニ氏を追ったドキュメンタリー映画「ミリキタニの猫」に、激しく心を揺さぶられた。その苦難の生涯とは裏腹に、氏の描く猫たちの、何とほのぼのと愛らしく幸せそうなことか。92歳でその生涯を閉じるまで、日系人強制収容所や原爆の理不尽さを語り継いできた
▼米カリフォルニア州で生まれた氏は、生後間もなく家族で広島に移住したが、18歳で渡米。1942年の大統領令を根拠に同州ツールレーク強制収容所などに送られ、その後、米国市民権も放棄。広島にいた母方の一家は原爆で亡くなった
▼米国を恨み、社会保障も受けずに路上で絵を描いていたが、米国人のリンダ・ハッテンドーフ監督との出会いで過去を受け入れるようになる。その経緯を描いたドキュメンタリー映画が2006年制作の「ミリキタニの猫」だ。路上で埋もれかけていた、収容所や原爆の絵が救い上げられ、映像に収められた、奇跡的な瞬間と言える
▼氏の没後5年となる今年、映画のリバイバル上映や絵画の展覧会が相次いでいる。画家としての評価も見直され始め、「移民に対する排除的な空気が広がる今こそ歴史を知ってほしい」と願う関係者も多い
▼氏は2001年9月11日の同時多発テロ事件の際にも、騒然となった街で黙々と絵を描き続けた。逃げ惑う人の流れにも平然と背を向け、猫の絵を描き続ける老人。氏はどんな思いで筆を動かしていたのか。おそらくは過去の体験をよみがえらせ、平和への思いを込めていたに違いない
▼映画タイトルにある「ミリキタニ」を、筆者は最初、名前とも、まして日本名とも思わなかった。漢字では「三力谷」と書く珍しい姓だが、その姓の日系人が移住したことから、米国にはミリキタリ姓が多くいるという
▼天性の画家で自ら「グランドマスター」と称した氏は、何よりも平和を愛する人間だった。絵を描くことの意義について氏は力強くこう語っている。「アートがなかったら殺しあっている。ピース。世界平和」と。

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