コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2016/01/06

水木しげるの慧眼

▼「ゲゲゲの鬼太郎」などの作品で知られる漫画家の水木しげるさんが昨年11月に93歳で亡くなった。その作品や人となりを敬愛してやまない一ファンとして、手元にある初期の作品などを読み返してみた。風刺のきいたその慧眼に改めて驚かされた
▼たとえば「昭和百四十一年」という短編コミックでは、作品の描かれた昭和41年当時から百年後の日本の姿が描かれている。水木作品お馴染みのうだつの上がらぬサラリーマンが、浦島太郎よろしく竜宮城から戻ると、西暦2066年にタイムスリップしているという設定だ
▼男はそこで動く道(エスカレーター)に乗り、ロボットに高額な通行料を請求される。樹木は排気ガスなどの環境汚染で滅び、街はグロテスクな彫刻やビニール製の木々で飾られている。街中で美人に目をやれば、法律に定められた快感料を払わされる羽目になる
▼我々の生きる現在に目を向ければ、動く歩道やロボットはすでに珍しいものでもない。植物の衰退なども、昨今の切迫した環境問題を考えれば、あながち絵空事とも言い切れない。すべて金で換算される世の中というのも、思い当たる節が多々あり耳が痛い
▼さらに作中では、象のように大きな人や猿のように小さな人が無表情で歩く街の光景が描かれる。自分の子孫に会えば、極端に体が小さい。聞けば、地価の上昇や人口の増加などで庶民はだんだん小さくなった。逆に、街で見かけた大きな人は上流階級で、裕福な生活とともに巨大化していったという。地価や人口の行方はともかく、今日大きな社会問題となっている格差社会を見事に言い当てている
▼こうした現実を目の当たりにした主人公の男は、生活にあえいでいた百年前が日本人にとって一番幸福な時期だったと悟って、物語は終わる
▼さて、明けて2016年はいかなる年になるのか。この水木作品には「希望に満ちた未来像」という皮肉な副題が付されている。今年が逆説的でなく本当の意味で〝希望の未来〟への一歩となることを願いたい。

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