コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2011/08/29

底知れず深い原発の闇

▼妖怪マンガで知られるマンガ家の水木しげるさんが32年前、雑誌「アサヒグラフ」に書き下ろした福島第一原発のイラストが、「福島原発の闇」(朝日新聞出版)という単行本になって発売された。1979年の米スリーマイル島事故の直後に、下請け労働者として原発に潜入したフリーライターの堀江邦夫さんが文章を書き、水木さんが絵をつけた。作業員の過酷な労働や、ずさんな管理体制が迫力ある筆致で表現されており、3・11以降の事態とつながるものがあることに驚かされる
▼今回の原発事故では、報道などから伝え聞くかぎりでも、原発という、何か巨大な魔物に相対しているような恐怖さえ抱かされたが、それは32年前の当時から違わぬものだったことがわかる。当時の潜入ルポでも、「放射能が絶え間なく肉体に突き刺さってきているはずだ。が、それを五感で感じることはできない。それだけに、いっそう不安がつのってくる」と、放射能の見えない恐怖が語られている
▼その緊張感はいかばかりだろうか。「高線量エリア」での作業は数十分で終わることが数時間かかったり、3、4時間作業をしていたように感じても実際は1時間足らずだった-などという言葉には実感がこもる。命綱はまさに線量計だけであり、その線量計も壊れていたなどという恐ろしい話もある
▼しかしそれ以上に恐ろしいのは、当時、スリーマイル島の事故に関することは口にできない雰囲気、無言の圧力があったという証言だ。著者が原発内で重傷を負った際の、元請け会社の〝労災隠し〟などの話も出てくる
▼最新の科学技術を駆使した原発も人力に頼らざるを得ないことは、今回の事故でも明らかだ。肉体を放射能にさらし、苦闘する労働者たちの姿は当時とまったく変わらず、非常時のいまは、あるいはそれ以上かもしれない。本書のうたい文句ではないが、原発の闇は深い。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ