コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/11/18

「はやにえ」と詩世界

▼知人の編集者のブログに、自宅の庭にあるオリーブの木で「モズのにえ(鵙の贄)」を見たという記事があった。「モズのにえ」とは「はやにえ(速贄)」とも呼ばれ、秋の季語にもなっている。鳥のモズが捕らえた獲物を木の枝などに突き刺したり、木の枝股に挟む行為を言う。生け捕るのは、昆虫や蛙、蛇、ムカデなど様々なようだが、知人が庭で見たのは蛙だという。枝に突き刺されて裏返って死んでいるカエルの姿たるや、無残で哀れなことこの上ない。知人も「話には聞いていたが初めて見た」とブログに記している
▼見た目は美しいモズだが、動物食で攻撃性に富む。樹上など高所から獲物を探して襲いかかり、再び樹上に戻って捕らえた獲物を食べる。しかし、わざわざ串刺しにまでする「はやにえ」が何のために行われるかはよく分かっていない。秋に頻繁に行われることから、冬の食糧確保のためとの説もあるが、そのまま放置することが多く、後になって食べることは少ない。餌付けされたモズも「はやにえ」を行うことから、本能による行動という見解が一般的だ
▼かくも奇妙な習性は、「はやにえ」の位置が冬季の積雪量を占うという風説まで生んだ。冬の食糧確保のため、本能的に積雪量を感知し、「はやにえ」を雪に隠れない位置につくるというのだ
▼さて話は戻るが、ブログで「はやにえ」を教えてくれたこの知人が、第二詩集『あるいは、透明な海へ』(創風社出版)を上梓した。〈それでも今日、私にもあなたにも無関係に鳥が飛ぶ〉そう書き綴って現代詩の新たな地平を開いた第一詩集から10年。「俳句」という定型詩の世界を模索し始めた著者による、端正な18の詩編が並ぶ
▼あとがきに「心の奥底にあるものを、もう一度、制約のない形で表してもいいのではないか」とあるように、詩編には定型を離れた魂の飛翔がある。引用された帯文には〈未来には、明るい光と同じ質量の不可解がある〉。定型と非定型の可能性を追求し続ける著者の、新たな境地が感じ取れた。

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