コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/08/04

犬たちの天国

▼実家の愛犬が死んだ。17歳半のポメラニアン。平均寿命は12歳から16歳だそうだから、小さな体で精一杯生きた、大往生と言えるだろう
▼犬について考えるたび、筆者には必ずひもとく愛読書がある。仏の作家ロジェ・グルニエ著「ユリシーズの涙」。著者グルニエが愛犬と過ごした日々を回想したエッセーで、犬をめぐる思索がちりばめられた43の断章からなる
▼この中で犬の寿命について何度も語られる。何よりも犬は人間の何分の一かの寿命を定められている。「犬という相棒は、そのライフサイクルの短さゆえに『わたしはもうすぐ死ぬのです』ということを教えてくれる」。喪失の悲しみをもたらすからこそ、俗に犬を「悲しみの動物」と言うのだと
▼筆者が最も心惹かれる断章は、詩人ボードレールが犬たちに特別な天国があると考えていたという挿話で始まる。著者グルニエが愛犬ユリシーズとサン=ジェルマン大通りを渡っていると、「犬を撫でさせてください」としばしば声をかけてくる老人がいる。老人はいつもユリシーズを撫でさすってからチョコレートを差し出すのだった。ユリシーズが若死にしたとき、その死を老人に伝えようとしたが、老人がいつも座っていたカフェが工事で休業となり、カフェ再開後もその姿を見かけることはなかった
▼その2年後、著者は街中で偶然、別人のように変わり果てた老人とすれ違う。相手は何も覚えていないようで、「あなたはうちの犬にチョコレートをやっていましたよね。ほらサン=ジェルマンの大きなポインター犬ですよ」と言っても、「犬ならどれも好きですから」とそっけない。自分の犬にご執心と思い込んでいた著者は、どの犬でもよかったのかと落胆する。それでも別れ際、老人はこう言うのだった。「ユリシーズは今、天国でアッシジの聖フランチェスコと一緒ですよ」
▼グルニエが恐らくそうであったように、犬たちの天国があると考えるだけで、筆者も喪失の悲しみから救われる。実家の愛犬も今は聖フランチェスコと一緒だろう。

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