コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/04/15

世界化する盆栽

▼盆栽の人気が海外で高まっているという。日本が長いこと世界の盆栽の頂点にあり、技法や流行は日本から波及していたが、その盆栽が盛んに輸出される一方で、海外では我々の感覚とは程遠い風変わりな作品も増えている。その変容ぶりは寿司の世界的な広がりとも似て、驚くばかりだ
▼盆栽の盛んなベトナムでは、ミニと呼ばれる小ぶりのもののほか、石灰岩の割れ目や穴に根をはわせる大型のものがある。高さ8m超、重さ10t級も珍しくないそうで、見れば、これが盆栽かと思わされる。ベトナム人の感性では日本の盆栽は小さすぎて物足りないということらしい
▼そもそも盆栽の発祥は中国で、唐もしくはそれ以前から脈々と続いてきた。呼び名も盆栽ではなく盆景といい、近年、再び発信源となるべく育成が盛んなようだ。盆栽は日本では戦後長らく熟年者の趣味とされてきたが、ベトナムや中国では30、40代に人気が高く、最近は日本でも若者の間で粋な趣味として認知されつつある
▼欧米でも「Bonsai」として根強い人気があり、ヨーロッパ産の木を盆栽に仕立てることも一般化している。1970年代には米国やヨーロッパに盆栽協会があり、イタリアには専門学校まであるという
▼そんな広がりを裏付けるように、たまたま書店で、アレハンドロ・サンブラというチリの若い作家の、その名も「盆栽」という小説が目に留まった。作家志望のフリオという青年を軸に、恋愛と創作の不可能性をミニマルな文体で描いた作品だが、物語の中では盆栽が主人公の孤独の象徴のように登場する
▼主人公が盆栽を育てるために購入した入門書いわく「盆栽とは、木を縮小サイズで芸術的に表現したもので、生きた木と器という二つの要素からなる」。作者自身も「書くことは盆栽の世話をすることに似ている。枝を摘み取ってゆき、そこに隠されていた形を浮かび上がらせる」と述べている。この感覚は日本伝統の盆栽にも当てはまり、海を渡っても、その精神が受け継がれている証しにも思えた。

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